赤の顔料


-目次-

概説

色の名前と顔料

□ ここで説明している顔料

  1. 無機顔料
  2. 有機顔料

概説

赤はエネルギーも低く原色の一つであることもあって、かなり多種類の顔料が使われています。
赤のレーキ顔料は昔は粗悪のイメージが強かったのですが、最近はかなり性能のいいものが使われるようになっています。
一部の人が使いにくいとされているマゼンタ系の赤は色の認識の勘違いに基づくものです。別に顔料としての性能が悪いわけではありません。


色の名前と顔料

絵の具の名前の多くは顔料の名前に由来していますが、必ずしも一致するわけではありません。
ここでは自分の知る限りの範囲で実際使われている絵の具の名前と顔料の対比をしてみます。ただし絵の具の名前は代表的な名前です。

絵の具の名前使われている/関連する顔料
アリザリンクリムソンアリザリンレーキ
アリザリンレーキアリザリンレーキ
アルプスレッドキナクリドン
インディアンレッドベンガラ
オペラ蛍光
カドミウムレッドカドミウムレッド
カドミウムオレンジカドミウムオレンジ
カーマインアリザリンレーキ、縮合アゾ系
クリムソンレーキクリムソンレーキ、アリザリンレーキ、アントラキノン系
コーラルレッドカドミウムレッド+チタンホワイト
スカーレットレーキアゾ顔料、イソインドリン系
ゼラニウムレーキアゾ顔料
チャイニーズレッドアゾ顔料、クロムレッド
バーミリオンバーミリオン、アゾ顔料、イソインドリン系
パーマネントレッドアゾ顔料
ピオニーレッドアゾ顔料
ピンクマダーアリザリンレーキ、縮合アゾ系
ブライトレッドアゾ顔料、ペリレン
ペリレンレッドペリレン
ベネシャンレッドベンガラ
マゼンタキナクリドン
マダーレーキアリザリンレーキ
マルスレッドベンガラ
ライトレッドベンガラ
ローズドレーアリザリンレーキ
ローズマダーアリザリンレーキ、縮合アゾ系

カドミウムレッド[Cadmium Red]

C.I.Name Pigment Red 108

[説明]

カドミウム元素が発見されたのは1817年で、カドミウムイエローにセレンを添加するとカドミウムレッドができることが発見されました。絵の具としては1920年頃から使われています。
カドミウムレッドは毒性を持つため注意が必要です。

[組成]

カドミウムレッドはカドミウムイエローにセレンが添加されたものです。カドミウムレッドは硫化カドミウム(CdS)およびセレン化カドミウム(CdSe)の混晶(つまり一緒に結晶をつくっている)で、化学組成であらわすとX CdS - Y CdSeで表されます。

セレンの割合が多くなるほど赤が強くなります。すなわち、もっとも多いものは濃赤色(マルーン)になり、少ないものは橙赤色(オレンジ色)でこれはとくにカドミウムオレンジと呼ばれることもあります。

CAS番号: 1306-23-6

[顔料の性質]

カドミウムレッドは不透明度が高く、色が強い赤です。カドミウムの値段が高いため、この顔料はかなり高価です。
カドミウムレッドは熱に強く、高温安定性は500〜600℃に達します。そのためガラス、陶器などの彩色にも使われます。
カドミウム系の顔料は硫黄と反応する顔料との混合は適当ではありません。したがってシルバーホワイトとの混色は不適当で、注意が必要です。

[毒性]

カドミウムと聞くとなにか思い出す人がいるのではないでしょうか。実はカドミウムという元素には毒性があり、少量でも毒性を発揮します。公害病の原因となっているほどです(イタイイタイ病)。
またセレンを含んでいるカドミウムレッドの致死量は50mg/kg(人間の体重を70kgとすると3.5gとなる。ちなみに青酸カリの致死量は4.4mg/kg)で、絵の具の顔料の中ではトップクラスです。セレン化カドミウムは皮膚や消化器、呼吸器から吸収されるため、直接手で扱い続けたりするのはしないほうがよく(とくに傷口注意)、食べたりするのは論外です。粉末を吸い込んでも危険です。注意して取り扱いましょう。

[油絵の具]

マルーン色のものからオレンジのものまで多様な色の絵の具を選択できます。乾燥は遅いけれども着色力と隠蔽力の強い油絵の具です。
カドミウムイエローとともに、その強力さゆえにあればとても便利な色です。


カドモポンレッド

[説明]

カドモポン顔料はカドミウムレッドに混ぜものをしたものです。カドモポン顔料は高価なカドミウムレッドを安く製造するために開発されたものです。
質の劣るカドミウムレッド(イエロー)としてカドモポンは使われたようです。

[組成・製法]

カドモポンはカドミウムレッドをつくるときに硫酸バリウム(BaSO4)を混ぜ込んで結晶の中に紛れ込ませたもので、この方法によって顔料の体積を増やすことができます。当然の結果としてその分発色能力が落ちます。

[顔料の性質]

カドミウムレッドと近似しますが、発色はカドミウムレッドに比べるとやや落ちます。


クロムレッド[Chrome Red]

C.I.Name Pigment Red 103

[説明]

なぜかチャイニーズレッド[Chinese Red]という別名があります。

[組成・製法]

クロムレッドの成分は塩基性のクロム酸塩ですが、製造工程の都合で水酸化鉛が混じっています。
クロムレッドは割合安価な顔料です。しかし現在ではクロムレッドはより安価な合成顔料にとってかわられています。色相が似ているアゾ系顔料による代用がきくためでしょう。筆者はこのクロムレッドを探しているのですが、なかなか見つかりません。絶滅してしまったのでしょうか。クロムレッドという顔料が見つからないため、その性質についてはよくわかりません。


バーミリオン(朱)[Vermilion]

C.I.Name Pigment Red 106

[説明]

いわゆる朱色ですが、名前から連想されるよりも色相については幅があります。
中国では古く、殷の時代からすでに多く使われていたようです。日本でも国内で手にはいることもあって寺社などに使われました。
なぜ古代から使われていたかというその理由は、ほとんどそのままの形で天然に存在するからで、とくに作らなくても拾ってきて砕きさえすればよかったわけです。

イングリッシュ・バーミリオン、フレンチ・バーミリオン等地名を付けて種類を分けています。
なおフレンチバーミリオンという名前がありますが、フランス産であるため?ではなさそうでちょっと頭を傾げているところです。
比較的高価な顔料です。

耐久性の高い顔料ですが、
強い日光に晒されると黒ずむことがあります。
不純物として含んでいる硫黄のために、シルバーホワイトと反応することがあります。

[組成]

バーミリオンの組成は硫化水銀(HgS)です。天然に算出する辰砂は水銀の主要鉱石でもあります。

[毒性]

水銀もカドミウムと同じように毒性があります。水銀化合物のほとんどは毒物ですが、なぜか朱だけは除外されています。そのため、指定外取り扱い注意物質ということになっています。誤解のないように行っておくと、硫化水銀はその取り扱いが他の水銀化合物と違うだけで、その危険性は他の水銀化合物と同様です。 硫化水銀は酸性にすると化学反応を起こすので危険です。

[油絵の具]

かなり使いにくい絵の具です。濁りやすい色であるし、また絵の中で非常に目立つ色であるので注意が必要です。ワンポイントでつかうと面白い色だと思います。


弁柄 [Indian Red]

C.I.Name Pigment Red 101

[説明]

鮮やかな色をしたものは赤として使うことができます。
マルスレッド、インディアンレッド等様々な名前で呼ばれます。
茶色の顔料を参照のこと


アゾ系顔料[AZO Pigments]

C.I.Name Pigment Red 185,221

[説明]

もっともポピュラーな有機赤色顔料です。様々な色調のものが存在します。

[構造]

アゾ化合物はアゾ基、すなわち両端にベンゼン環を持つ窒素の二重結合(-N=N-)をもつ化合物で、ジアゾニウム塩と芳香族化合物のカップリングによって合成されます。
アゾ系顔料はアゾ基の数によって一つならモノアゾ、二つならジスアゾ、アゾ基を多数持つ縮合アゾ顔料に分けられます。
アゾ化合物は染料ですからそのままでは顔料にはなりません。したがって、レーキにして利用されます。

[顔料の性質]

安価であり、赤色顔料としてもっともよくつかわれているようです。しかし顔料としての性質はあまり優秀ではありません。
縮合アゾ系顔料は最近(1957年スイス)登場したアゾ系顔料の改良型ともいえるもので、アゾ基を含む重合体です。アゾ系の顔料を(-NH-CO-)などの結合でつなぎ合わせ、巨大な分子(重合体)を作っています。その大きさは普通のアゾ化合物の数十倍あるようです。そのため顔料としての性質はかなり向上しています。

[油絵の具]

透明度はレーキの体質顔料によって差があるようです。


アリザリンレーキ[Alizarin Lake]

C.I.Name Pigment Red 83

[説明]

アリザリンは日本語で茜とも書かれます。これは植物起源の天然色素です。アリザリンはエジプト、ペルシア、インド地方に知られた最古の染料の一つです。古代ギリシアでも茜を栽培し、その色素をとっていました。
アリザリンは人工的に合成し得た最初の天然色素で、1869年C.GraebeとC.Liebermannらが、ジブロムアントラキノンのアルカリ融解により初めて合成に成功しました。現在はアントラセンをスルホン化した後、アルカリ融解によって合成されています。工業的に合成されるため現在は安い顔料となっています。このアリザリンの合成によって茜の農家は次々とつぶれることになりました。このアリザリンの合成以後、有機顔料の合成が盛んになっていくことになりました。
マダーレーキはアリザリンレーキの一種です。アントラキノンの誘導体を成分とし、例えばカルシウムなら紫みの赤、アルミニウムならバラ色赤(ローズマダー)、ストロンチウムなら赤となります。耐久力が大きく、弱アルカリに強く、アルコール・油に溶出しません。発色がよく、透明度の高い顔料です。
現在アリザリン系の顔料には様々な顔料が存在し、顔料として有用であるため広く使われています。

[構造と製法]

アリザリンはアントラキノンの誘導体です。
アリザリンの構造
顔料としては、カルシウム−アルミニウムレーキが耐光性がよいのでもっともよく使用されています。

[顔料の性質]

レーキ顔料であるため、アリザリンレーキは酸に弱いことになります。

[油絵の具]

さまざまな色調のものが絵の具に使われています。
あまり色の薄いものは使いにくいかもしれません。


クリムソンレーキ [crimson lake]

C.I.Name Pigment Red 177

[説明]

クリムソンレーキは深紅色の顔料の名前です。コチニールレーキがクリムソンレーキに使われていましたが、現在はその他の顔料が使われています。
クリムソンレーキは色が深い分混ぜるといくぶんかにごる傾向がある顔料が多いようです。


コチニールレーキ [cotinile lake]

C.I.Name Pigment Red 177

[説明]

クリムソンレーキとして使われた深紅色の色素です。
コチニールレーキはアントラキノン誘導体のコチニールという色素のレーキ顔料です。コチニールはメキシコ・南米のサボテン化の植物に寄生するエンジムシの雌虫からとっていました。ヨーロッパには1525年頃にメキシコから伝わっています。コチニールレーキは高価な顔料なので現在はアントラキノンから誘導した色素がほとんどの場合使用されています。

[構造と製法]

コチニールレーキの主成分、カルミン酸はアントラキノンの誘導体で次のような構造をしています。
カルミン酸
色素を抽出した液からミョウバンと酒石英を用いるとクリムソンレーキが、ミョウバンと塩化錫からはカーマインレーキが得られます。


キナクリドン系顔料[Quinacridone Pigments]

[説明]

一般に余り知られていない顔料ではないかと思います。キナクリドンは紅色の透明な色です。やや赤紫に近いので、赤紫色の顔料として使われていることが多いようです。
キナクリドンは高級顔料と呼ばれる合成有機顔料で、顔料として、堅牢で、耐久性がよく、にじみを起こしにくい顔料です。顔料としての問題点は特にありません。
製造コストがかかるためやや高価なことが欠点です。

[構造]

キナクリドンは次のような構造を含んだ顔料です

[油絵の具]

赤紫の顔料としてよく見かけます。


ペリレン系顔料 [Perylene Pigments]

C.I.Name Pigment Red 149

[説明]

これも、知っている人は少ないでしょう。大変堅牢な顔料で、にじみや分離を起こしにくい優れた顔料です。キナクリドンと同様に高級顔料と呼ばれています。
製造コストがかかるためやや高価なのが欠点です。

[構造]

ペリレン系の顔料は次のような構造を含んでいるのが特徴です。
x

[油絵の具]


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