-目次-
□ 概説
□ 色の名前と顔料
□ 顔料の個別解説
□ 概説
緑色の顔料でもっとも歴史が古いのはテールベルト(緑土)や緑青でしょうか。
緑色はさまざまなものがありますが、くせがあるものが多く、どうしてもいい緑色がないときは、青と黄色を混ぜてしまえばよいのです(^_^)。
三原色の原理によれば、青と黄色を混ぜれば緑ができるのですが、混ぜられた絵の具は分離して二つの色に別れることがあるので、不便なときもあるようです。古い緑のペンキが上と下とで青と黄色に分かれてしまったのを見たことがある人もいるのではないでしょうか?(それを青のペンキとして使った人もいましたが)
□ 色の名前と顔料
絵の具の名前の多くは顔料の名前に由来していますが、必ずしも一致するわけではありません。
ここでは自分の知る限りの範囲で実際使われている絵の具の名前と顔料の対比をしてみます。
昔使われていた顔料の名前が名前だけ残っていて、実際はフタロシアニングリーンなどの安価な緑と黄色や青の顔料で調整されている場合が多いようです。
| 絵の具の名前 | 使われている/関連する顔料 |
| エメラルドグリーン | フタロシアニングリーン+アゾ系イエロー+チタンホワイト、エメラルドグリーン |
| オキサイドオブクロミウム | 酸化クロム |
| オリーブグリーン | ニトロソ系+アゾ系+群青 |
| コバルトグリーン | コバルトグリーン |
| ビリジアン | ビリジアン、フタロシアニングリーン |
| カドミウムグリーン | カドミウムグリーン、ビリジアン+カドミウムイエロー |
| コンポーズグリーン | ビリジアン+カドミウムイエロー+チタンホワイト 0. |
| サップグリーン | アゾ系イエロー+フタロシアニングリーン、 |
| シナバーグリーン | イエローオーカー+チタンイエロー+アゾ顔料+フタロシアニングリーン、クロムグリーン |
| テールベルト | テールベルト |
| パーマネントグリーン | アゾ系イエロー+フタロシアニングリーン |
| バライタグリーン | フタロシアニングリーン+アゾ顔料+チタンホワイト、バライタグリーン |
C.I.Name Pigment Green
[説明]
エメラルドグリーンという色の名前とその色はほとんどの人が知っているでしょう。青みを帯びた緑でとても明るい色です(鮮緑色)。
エメラルドグリーンは1778年にドイツ人のシェーレがスウェーデンで合成したシェーレグリーンと同様の銅系の顔料で、1800年ミティスが発見し、1814年にザトラーが工業化した顔料です。エメラルドグリーンが登場すると、優れた品質のためにシェーレグリーンにとって代わりました。
エメラルドグリーンはビリジアンの登場により、緑色の主役の座を降りることになります。
エメラルドグリーンは(組成の項で述べた通り)砒素を含む化合物なので、毒性が大変強く、現在はまず使われていません。
[組成と製法]
エメラルドグリーンの組成は酢酸亜ヒ酸銅(Cu(C2H3O2)2・3Cu(AsO2)2)です。
ちなみに、シェーレグリーンはCuAsO3・Cu(OH)2またはCu(C2H3O2)2・3Cu(AsO2)2になります。
[油絵の具]
エメラルドグリーンの顔料はその毒性のために使われることは少なく、多くの場合エメラルドグリーンという名前が使われていても他の顔料を混ぜ合わせたものが使われています。従って毒性などの心配をする必要はまずありません。
C.I.Name Pigment Green 14
[説明]
純粋なカドミウム化合物ではなく、ビリジアンとカドミウムイエローの混合物に付けられた名称のようです。
[組成と製法]
カドミウムグリーンはビリジアンにカドミウムイエローを加えたものです。顔料の合成段階で混ぜるか、絵の具の製造段階で混ぜるかにより少し性能に差が出るようです。
[油絵の具]
カドミウム系の色なので、混色に注意が必要です。
カドミウムイエローと緑を混色すればカドミウムグリーンを使う必要はなさそうな気もします。
C.I.Name Pigment Green 10
[説明]
グリーンゴールドは割合早くに開発された有機顔料です。
[組成と製法]
グリーンゴールドはニッケルの錯塩です。
[顔料の性質]
グリーンゴールドは有機顔料の中で、堅牢なものの一つです。
[油絵の具]
この顔料は(筆者の知る限り)油絵の具には使われていないようです。
C.I.Name Pigment Green 15
[説明]
クロムグリーンにはシナバーグリーン[cinnabar green]という別名があるようです。シナバーは辰砂のことでなぜクロムグリーンがシナバーグリーンになるのかは不明です。もっとも最近ではシナバーグリーンという名前の絵の具でもクロムグリーンは使われていないようです。
[組成と製法]
クロムグリーンはクロムイエローとプルシアンブルーの混合物です。
[顔料の性質]
強い光や空気中の亜硫酸ガスによってクロムイエローが退色すると、プルシアンブルーののみが残るため、青みを帯びてしまいます。
硫化水素ガスによってクロムイエローが黒変するため、青みを帯び、黒っぽくなります。
[油絵の具]
クロムイエローがほとんど使われなくなったためか、現在は使われていないようです。シナバーグリーンとして売られている絵の具もいくつかの顔料を混ぜ合わせて作られています。
C.I.Name Pigment Green 19
[説明]
1780年にドイツ人リンマンによって発明されました。
[組成と製法]
コバルトグリーンは酸化亜鉛ZnOと酸化コバルトCoOの固溶体です。
亜鉛華とコバルト塩の水溶液を混合したものを、1000℃以上の温度で焼成して製造します。焼成すると亜鉛とコバルトの酸化物が固溶体を作り、濃い緑色になりますが、酸化マグネシウムを加えると淡い青緑色となります。
[顔料の性質]
やや青みを帯びた緑の顔料です。
貯蔵して安定しないため水彩絵の具には向かないようです。
[油絵の具]
適度な不透明をもっていて使いやすい緑の絵の具です。多少値段は高めですが使いやすい絵の具です。緑らしい緑色を使いたいがビリジアンでは強すぎるという人には最適化もしれません。
C.I.Name Pigment Green 17
[説明]
1860年頃から絵の具用に用いられています。
[組成と製法]
酸化クロムの組成はCr2O3になります。ビリジアンと同じくクロム系の顔料ですが、水を含んでいません。
重クロム酸カリウム(K2Cr2O7)を還元剤とともに強熱して得られます。
K2Cr2O7+ 2C → Cr2O3 + K2CO3 + CO
[顔料の性質]
ビリジアンと同様にクロムを含んでいますが、ビリジアンと異なり不透明で鈍い色調ですし、ビリジアンよりは黄味を帯びています。
耐光性はよく、酸やアルカリ、溶剤に対する安定性もよい顔料です。
酸化クロムは硬度の高い顔料です。
[油絵の具]
地味な絵の具ですが、不透明さを利用して初期の描画に利用するといいでしょう。
C.I.Name Pigment Green 23
[説明]
暗い色調の緑色をしている土顔料で、緑土と呼ばれます。
ローマ時代に壁画用顔料として用いられ、イタリアの画家によってフレスコ画の肌色の下塗り用に用いられてきた天然の顔料です。
天然のものを用いる変わりに緑色に褐色を混ぜて用いられていることがあるようです。
粘土質で、カルシウム・マグネシウム・鉄などの複雑な珪酸塩が含まれています。 イタリアのヴェローナ地方を始め、キプロス島、ドイツ、フランス、チェコスロバキアなどで産出されています。
[顔料の性質]
テールベルトは3つの種類があります。
ベローナ型
ビリジアン調の淡い緑土です。
ボヘミア型
オリーブグリーン調の緑土です。
体質型
ほとんど緑みはないため、クレーやタルクのような外観をしている緑土です。緑色顔料ではなく体質顔料として用いられます。
[油絵の具]
テールベルトはちょっとぱさぱさした感じの油絵の具です。緑色としてはそれほど強くありませんが、その分加減せずに使うことが出来ます。
緑土を使わずに、緑と褐色の顔料を混ぜ合わせて作られている場合もあります。その場合性質は混ぜ合わせた原料に依存するはずです。
C.I.Name Pigment Green
[説明]
別名マンガングリーン。少し淡い感じの緑です。
マンガン酸バリウムは耐久性に富んでいます。
[組成と製法]
バライタグリーンはマンガン酸バリウム、もしくはバライタイエローと緑や青との混合品。
バライタグリーンという名前でも実際は他の顔料を混ぜ合わせて作られているようです。
C.I.Name Pigment Green 18
[説明]
緑色の定番ともいえる顔料で。絵の具の名前として知っている人も多いのではないでしょうか。
ビリジアンは1838年にフランス人パンヌティエによって発明されました。
1859年にギネーによって特許が広告されて普及したので、「ギネーの緑」とも呼ばれます。
ビリジアンは緑らしい緑色をしています。かなり色の強い顔料です。
化学的な変化は起こりにくい顔料です。また耐光性に優れているので、光による変質はありません。
ビリジアンはクロムを原料としていますが、特に強い毒性はありません。
[組成と製法]
ビリジアンの組成はCr2O(OH)4です。
ビリジアンは重クロム酸カリウム (K2CrO4) とホウ酸 (H3BO3) を混合して、600度で加熱しこれを水和してビリジアンとホウ酸に分解させます。これを水洗してホウ酸や他の水溶分を流し去り、脱水・乾燥・破砕させて得られます。
[油絵の具]
ビリジアンは油絵の具の中でも、乾燥は速い部類に入ります。
油絵の具としては代表的な透明色です。透明色ですが色が強いので押さえ気味にしないとと不自然な感じになります。
ビリジアンのTINT(偽物)の正体はだいたいフタロシアニングリーンです。色の鮮やかさや乾燥速度など偽物との違いが結構大きいので注意が必要です。両者を別の絵の具として認識した方がいいでしょう。
[説明]
緑青は歴史の古い顔料です。天然にマラカイト(孔雀石)として算出します。
いわゆる銅の青錆でもあります。銅ぶきの屋根が緑青に覆われている様はとてもきれいですね。
他の顔料に押されて水彩絵の具や油絵の具では使われなくなっていますが、日本画などで今も使われているようです。
まぎらわしいのですが、マラカイトグリーンは別の染料の名前で、同じような系統の色をしてはいますが別物です。
[組成と製法]
緑青の主成分の組成は塩基性炭酸銅で以下のような組成で表されます。
塩基性炭酸銅: CuCO3・Cu(OH)2
塩基性酢酸銅: Cu(C2H3O2)2・Cu(OH)2
ただしその組成は一定していません。
一方マラカイトの組成はCu2CO3(OH)2とされています。
■ フタロシアニングリーン[Phthalocyanine Green]
C.I.Name Pigment Green 7, 36
[説明]
1938年に登場したフタロシアニングリーンは非常に優秀な有機顔料です。
ビリジアンによく似た色から、黄色身を帯びたもの、逆に青みを帯びてフタロシアニンブルーに近いものが存在します。
ビリジアンによく似た色調のものは、ビリジアンのTINTとして使われています。が、ビリジアンよりやや鮮やかなことが多いようです。
[組成と製法]
最も多く使われているものは塩素化銅フタロシアニンです。他に塩素の変わりに臭素の入ったものや、塩素と臭素を含むもの、銅を含まないものなど、さまざまな組み合わせのものが存在します。
塩素化銅フタロシアニンで下のような構造をしています。
[顔料の性質]
きわめて堅牢で理想的な顔料と言っていいでしょう。鮮やかな色をしていて、着色力はかなり強い顔料です。また耐久性に富んでいます。
顔料としての欠点はほとんどないので安心して使うことが出来ます。
[油絵の具]
鮮やかな色です。ビリジアンのTINTとして使われていることが多いのですが、はっきりとビリジアンとは別の色として認識した方が間違いが少ないのではないかと思われます。
ビリジアン以上に強い色なので、気を付けて使うべき色でしょう。もちろん派手な緑を使いたいときには最適な絵の具です。
またそれ以外にもフタロシアニングリーンと他の顔料を混ぜ合わせてさまざまな緑系の絵の具が作られています。