乾性油


油の構造

油は下図のようなグリセリンと3つの脂肪酸(しぼうさん)からできています。
油の構造略図 油の化学構造式
上の化学構造式で赤の部分がグリセリン、脂肪酸のR,R',R"はそれぞれアルキル基で脂肪酸の種類によって異なります。
化学的には「油脂はグリセリンと脂肪酸のエステルである」という表現をとります。
油にはいろいろな種類がありますが、それらの違いは脂肪酸の種類によります。たとえば菜種油や大豆油というふうな一つの種類の油と思われるものでも実際はいろいろな脂肪酸を含んでいます(油の分子中の脂肪酸の組み合わせはそれぞれ異なります)。


乾性油

油絵で使われる油は乾性油と呼ばれる種類の油です。
乾性油・半乾性油・不乾性油という分類はヨウ素価という分析値によってなされます。

化学的には不飽和結合の多い脂肪酸を多く含んだ油ということになりますが、この不飽和結合のある位置で油同士がくっつくので、不飽和結合が多いほど油の固化は速くなります。

ヨウ素価は100gの油に吸着されるヨウ素のグラム数で表します。簡単に言えばこのヨウ素価が大きいほど不飽和結合が多く存在することになるので固まりやすくなることになります。
下の表を見ればアマニ油のヨウ素価はケシ油の約124%ほどあることがわかります。

油とそのヨウ素価
区分油の種類ヨウ素価
乾性油 荏の油 190 - 215
アマニ油 175 - 195
桐油 160 - 175
ケシ油 140 - 158
くるみ油 140 - 150
ベニバナ油140 - 150
ひまわり油125 - 140
半乾性油 ナタネ油 101 - 121
不乾性油 ヤシ油 6 - 11

ここで注意して欲しいところは、ヨウ素価の違いで油の乾燥が決まるというような油の性質に直接関わるような指標ではないことです。
むしろ複雑な混合化合物である天然の油を扱う上で、大まかな分類や品質の確認等に便利な指標であると理解してください。


油の固化

油絵の具の乾燥は他の絵の具と違って、油が蒸発して無くなってしまうようなことはなく、油が化学的な変化を起こして固まることになります。
油の固化は次のように段階的に進みます。

  1. 酸素を吸収して粘りけが増していく

    さらさらとしていた油がだんだんとどろどろとしていきます。

  2. べとつき始める

  3. 表面に塗膜が出来る

    表面に塗膜が出来た段階で普通人は「乾燥した」と呼びます。というのは表面に塗膜が出来れば上へ塗り重ねることができるし、服がふれても絵具がつかなくなるからです。

  4. 内部へ向かって固化が進行する。

    塗膜の内側はゆっくりと固化していきます。表面に塗膜ができる速度に比べると非常にゆっくりとした速度で

乾燥を早める要因を述べておきます。まず光は反応を早めます。また温度を上げればも絶対温度(摂氏温度+273)に比例して反応が早くなるでしょう。鉛やマンガンなどの金属(石鹸)は触媒作用で油の固化を早めます。
ということで、うちわで扇いでも油絵の具の乾燥固化は早くなりません(溶剤の蒸発は早まります)。ドライヤーで乾かそうという試みも大した効果は期待できません。乾燥促進剤の使用や乾燥の早い絵の具の使用は目に見えて効果があります。日光に当てれば乾燥は早まりますがひび割れなどが起こることがあるそうです。

固化反応について

どの様な化学変化が起きるかというと、乾性油の中の不飽和結合の位置で酸素を介した橋かけによる重合でかなり複雑な化学変化です。
おそらく不飽和結合と酸素分子が作用し、ラジカルが生成することで連鎖反応が起こっているものと考えられますが、確たる証拠については筆者は寡聞にして知りません。おそらくかなり複雑な反応です。
光の作用でラジカル生成が促進されるので、光が当たった方が反応は早く進みます。また金属石鹸は酸素と配位して油中に酸素を運搬する役割を果たすことになるので乾燥を促進する作用を持ちます。


乾性油の保管

乾性油に限らず油は自然に酸化されて劣化していきます。とくに乾性油はその速度が速くなるので注意が必要です。
乾性油は買いだめをするより、こまめに買った方が品質は良いでしょうし、お店の保管状態が悪いようなら買わないのが賢明です。

乾性油は空気に触れると酸化されていくので空気に触れないように密閉できる容器で保管する必要があります。
大きな瓶に少量入れたりしていると、その空いた部分に空気が入ってしまうのであまり良くありません。
画材店で売られている容器はたいがい密閉できるようになっているはずです。

光は乾性油の重合を促進させる効果があるので、できれば暗い場所で保管した方がよいでしょう。

また熱によっても重合が起こりやすくなるので、温度の高い場所には置かないのが賢明です。

油壺に入れておけば油は保管できそうに思えますが、油壺の中では容易に酸化が進行します。したがって油壺はあくまで一時的な容器として使い、場合によっては一度使った油は捨てた方がいいかもしれません。


乾性油の種類

日本で一般に油彩画用に使われる乾性油はリンシードオイル(アマニ油)、とポピーオイルです。他にもヒマワリ油、クルミ油、桐油などの乾性油があります。
どんな乾性油があるのかちょっと紹介していきます。


リンシードオイル (亜麻仁油)

麻の実をつぶして得られる油です。一般的な乾性油でちょっと黄色っぽい色をしています。
淡い色や明るい色を扱う人はリンシードオイルの色を嫌う人も多いですが、それほど神経質になる必要はないでしょう。
ポピーオイルよりも不飽和度が高いのでリンシードオイルの方が油の固化速度は速くなります。


ポピーオイル (けし油)

(麻薬の阿片で有名な)けしの実から取った油です。
特徴は透明なこと。乾燥速度はリンシードオイル(亜麻仁油)に劣ります。
ポピーオイルはリンシードオイルと違って無色なので明るい色を扱うときに向いています。が、気にならない人は気にならないかもしれません。
単独で使用し、混ぜすぎると乾燥が遅くなるので他の油との併用をおすすめします。(リンシードも同じでしょう)


□ キリ油

キリ油はアブラギリの種子から搾油された油です。
粘度が高いという特徴があります。

キリ油の脂肪酸組成の大部分はα-エレオステアリン酸で、αエレオステアリン酸の特殊な立体構造(9,11,13にcis-trans-transの二重結合がある)のために酸化重合反応は他の乾性油とは少し異なります。このエレオステアリン酸の性質は興味深いところですが、この特徴のために油彩画用の乾性油としてはあまり使われていないのかもしれません。


加熱重合油

乾性油を加熱して重合させた油です。リンシードオイルよりも色が濃いです。粘性の高い(もしくは半分固まった)リンシードオイルと考えればいいでしょう。
粘性が高く、乾燥が(すでに半分乾燥しかけているようなものなので)やや速いです。乾くと丈夫な画面になります。
古典的な塗り重ねる描き方に向いているようです。
乾燥促進剤と混ぜるとその乾燥速度は尋常でなくなります。


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